東京地方裁判所 昭和29年(行)20号 判決 1959年10月07日
原告 西村専次 外二名
被告 王子税務署長 外二名
訴訟代理人 真鍋薫 外一二名
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
当事者双方の申立及び主張は別紙のとおりである。
証拠<省略>
理由
一、原告ら主張の請求原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争がない。そこで被告らのなした更正決定ないし訂正決定の適否につき考えてみる。
二、被告王子税務署長のなした原告西村に対する更正決定について。
(一) 原告西村が食料品(乾物)販売業を営むものであることは当事者間に争ないところ、証人野田喜三郎の証言によれば、原告の昭和二七年分所得に関する帳簿書類(売上帳、仕入帳及び棚卸帳)には、仕入れ、売上げ、経費等に記帳洩れがあつて、記懐内容が不正確であつたことが認められるから、推計によつて所得を計算することもやむをえないことといわねばならない。
(二) 原告の昭和二七年分の期首及び期末の在庫商品が、ほとんど差がなく、ともに約六〇、〇〇〇円であることは当事者間に争ないので、他にこれを不当と認むべき証拠がないから右同額をもつて昭和二七年中の平均在庫額と認めることも已むを得ないところ、前顕野田証言及び右証言と弁論の全趣旨とによつて真正に成立したものと認める(西)乙第一ないし第三号証によれば、東京国税局の調査による王子税務署管内食料品商(年所得三〇〇、〇〇〇円以下)の昭和二七年分の商品回転率は四三・八、同じく東京国税局調査による食料品商の昭和二七年分の所得標準率は一五・七であり、(右各率は合理的に作成されたものであることは(西)乙第一号証によつて認められる)かつ、後記認定のようにこれらを原告に適用することは相当であると認められるので、原告の昭和二七年分の推計売上高は、前記平均在庫額六〇、〇〇〇円に商品回転率四三(小数を切捨てて考えてみる)を乗じて得られる二、五八〇、〇〇〇円を下らないものというべく、したがつて推計所得金額は、右二、五八〇、〇〇〇円に前記所得標準率一五・七を適用して得られる四〇五、〇六〇円から、原告が特別経費として主張する営業部分に対応する年額家賃三、六〇〇円(この対応家賃が年額二、四二六円であるとの被告の主張は、これを認めるに足る証拠がない)を控除した四〇一、四六〇円を下らないものというべきである。
原告は、昭和二七年中の売上高は一、一九一、九〇〇〇円にすぎないと主張するが、証人西村きくの証言により原告の昭和二七年度売上帳であると認められる(西)甲第一号証の内容は、前顕野田証言に照し正確なものとは認められず、他にも原告の主張を認めるに足る証拠はない。原告はまた、原告方店舗が都電の停留所繁華街から約二〇〇米も離れているうえ同業者の店舗があつて競争が激しいという悪い立地条件にある等から、通常の商品回転率を原告に適用するのは不合理であると主張するのでその点について判断すると、原告方店舗の位置がその営業上適当な場所とはいゝ難く新らしく他に競争相手が生じたことは証人西村の証言によつて認められるけれども証人野田の証言によると競争相手の生じたのは昭和二十八年になつてからのことであり、店舗の場所の不利も前記認定の商品回転率を原告に適用することがとくに不合理であるとは認められないことが明らかであるばかりでなく、西村証言及び同証言により原告の昭和二十七年度仕入帳であることの認められる(西)甲第二号証によつても、商品の一である卵につき、前記回転率とほゞ同率の回転率であることをうかがうことができるから、原告の右主張は採用できない。
(三)したがつて前記認定の所得金額四〇一、四六〇円の範囲内でこれを二九五、九〇〇円とした被告王子税務署長の更正決定は違法ではない。
三、被告荒川税務署長のなした原告木島に対する訂正決定について。
(一) 原告木島が青果物販売業を営むものであることは当事者間に争ないところ、証人石岡富七の証言によれば、原告の昭和二七年分所得に関する帳簿書類(売上帳、仕入帳、仕入内訳帳、経費帳等)中売上帳については記帳洩れがあり、不正確な内容であつたことが認められるから、所得金額の算定について一部推計によつてこれを計算することもやむをえないことである。
(二) 原告の昭和二七年分商品の期首棚卸高が二一、五三〇円、仕入高が一、三二一、九四五円、期末棚卸高が二二、九〇〇円であることは当事者間に争ないので、右期首棚卸高と仕入高との和(一、三四三、四七五円)から期末棚卸高(二二、九〇〇円を差引いた一、三二〇、五七五円をもつて売上原価と認めうべきところ、前顕石岡証言及び証人野田の証言と弁論の全趣旨とによつて真正に成立したものと認める(木)乙第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告の果物と青物との売上割合は三〇%と七〇%であること、及び、東京国税局の調査による昭和二七年分標準差益率は果物につき二二・二〇%青物につき二〇・二〇%(いずれも小売の場合)であり(右各率は合理的に作成されたものであることは(西)乙第一号証によつて認められる)、かつ、これを原告に適用することは相当であることが認められるので、原告の昭和二七年分推計売上高は、〔売上原価÷(1-差益率)=売上高〕の算式により、果物については前記売上原価合計一、三二〇、五七五円の三〇%である三九六、一七二・五円(果物売上原価)を〇・七七八〇(1-果物差益率)で除して得られる五〇九、二一九円、青物については売上原価合計一、三二〇、五七五円の七〇%である九二四、四〇二・五円(青物売上原価)を〇・七九八〇(1一青物差益率)で除して得られる一、一五八、三九九円、以上果物及び青物の合計一、六六七、六一八円を下らないものというべく、したがつて同年分の荒利益は、期末棚卸高二二、九〇〇円売上高一、六六七、六一八円の合計一、六九〇、五一八円と期首棚卸高二一、五三〇円仕入高一、三二一、九四五円の合計一、三四三、四七五円との差額三四七、〇四三円を下らないものというべきである。ところで、同年分の必要経費については原被告が争があるが、いまかりに原告主張の九六、四〇九円をすべて必要経費とみるとしても、原告の昭和二七年分所得金額は、右九六、四〇九円を前記荒利益三四七、〇四三円から控除した二五〇、六三四円を下らないこと計数上明らかである。
証人檜山義介の証言及び原告木島の本人尋問の結果によつても右推計が不合理とは認められず、他にもこれをくつがえして、原告の所得がその主張金額にすぎないことを認めるに足る証拠はない。
(三) してみると、原告の所得金額を前記二五〇、六三四円の範囲内で二三七、七〇〇円とした被告荒川税務署長の訂正決定は違法ではない。
四、被告豊島税務署長のなした原告渡辺に対する更正決定について。
(一) 原告渡辺が陶器販売業を営むものであることは当事者間に争ないところ、証人宮崎俊雪、同渡辺勇の各証言及び渡辺証言により成立を認めうる(渡)乙第一号証の一ないし五並びに弁論の全趣旨により原告方の入金伝票ないし仕切書であることの認められる(渡)甲第一号証同第、二号証の一ないし一三、同三二ないし四四、同一〇二ないし一二三を合せ考えれば、原告の昭和二七年分所得に関する帳簿書類(仕入帳、売上帳、出納帳等)には、とくに仕入において記帳洩れがあり、したがつて売上の記帳洩れも推測され、全体として不正確な内容であつたことを認めることができるから、推計によつて、所得を計算することもやむをえないところである。
(二) 原告の昭和二七年分商品の期首棚卸高が二〇一、〇二八円、期末棚卸高が六八、五二三円であること、仕入として近江化学株式会社から七八、八九七円、青木商店から七九、九三六円、日栄商店から五四、三八八円の各仕入があつたことはいずれも当事者間に争ないころ、前顕乙第一号証の一ないし五、証人渡辺勇の証言によれば、原告には昭和二七年中さらに、長谷川商店から一六五、〇六二円、高木商店から一九九、四九五円、九八商店から一四一、四三八円、加藤商店から九二、一七三円、吉川商店から一二三、三一六円の各仕入があつたことが認められるので、前記争ない部分と合せ、同年中の仕入額合計は九三四、七〇五円というべきであり、したがつて、売上原価は、前記期首棚卸高と仕入高との和から期末棚卸高を差引いた一、〇六七、二一〇円となること計数上明らかである。ところで、成立に争ない(渡)乙第四号証、証人野田の証言及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める(渡)乙第三号証、証人宮崎俊雪の証言によれば、原告が作成提出した損益計算書の記載からする差益率(売上高より売上原価を控除した差額を売上高で除したもの)は約三〇%であること、東京国税局の調査による陶磁器小売商の昭和二七年分の差益率は三〇・三〇%であり、所得標準率は二五.三%であること、及び右差益率所得標準率を本件推計に適用することは相当であることをそれぞれ認めることができるので、原告の昭和二七年分推計売上高は、〔売上原価÷(1-差益率)=売上高〕の算式により、前記売上原価一、〇六七、二一〇円を〇・七〇で除して得られる一、五二四、五八五円を下らないものというべきであり、特別経費控除前の所得は右金額に前記所得標準率二五・三%を適用して得られる三八五、七二〇円を下らないものというべきである。原告が昭和二七年中に支払つた営業経費として、家賃四、三二〇円及び雇人費四九、〇〇〇円については、当事者間に争ないが、原告はさらに、雇人費として四八、〇〇〇円を現物(食事)で支給し、借入金の利息として一二〇、〇〇〇円を支払つたから経費に加算さるべきであると主張するけれども、雇人費の現物支給分はすでに先の雇人費四九、〇〇〇円のうちに見込まれているものであることが前顕(渡)乙第四号証及び宮崎証言により認められるし、借入金の利息についてもその支払の事実はないことが前顕渡辺証言及び同証言により成立を認めうる乙第二号証の一、二によつて認められるので、原告の主張は正当でなく、前記家賃四、三二〇円及び雇人費四九、〇〇〇円の合計額五三、三二〇円のみをもつて特別経費と目すべきである。したがつて、原告の昭和二十七年分推計所得金額は、前記三八五、七二〇円から右特別経費五三、三二〇円を控除して得られる三三二、四〇〇円を下らないものというべきである。
原告は、昭和二七年中の売上高は一、一〇四、八〇〇円、仕入高は五七八、二九七円であるにすぎないと主張し、その提出にかかる(渡)甲第一号証(入金伝票)、同第二号証の一ないし一二三(仕切書)の各金額合計額は、それぞれ右主張の売上高及び仕入高と符合するけれども、右伝票、仕切書がいずれも取引の一部の記帳であるにすぎないことは前記(渡)乙第一号証の一ないし五及び宮崎、渡辺の各証言により認められるところで、他にも原告の右主張を首肯せしめるに足りる証拠はない。原告はまた、原告の昭和二八年ないし三一年の、被告の承認をうけた所得額は昭和二八年一八五、〇〇〇円、同二九年一九五、〇〇〇円、同三〇年二七九、六〇〇円、同三一年三〇八、〇〇〇円であつて、昭和二七年は開業当初の年度であるから、経験則上その後の年度より所得が少ないのが当然であると主張する。そして、原告が昭和二八年ないし三一年の所得税の確定申告として右主張の額を申告し、これについて更正決定がなされなかつたことは被告の認めるところであるが、このことをもつて直ちに本件所得推計が不合理であるとするのは適当でなく(原告も、昭和二七年分所得額につき、当初の申告額一七一、〇〇〇円をひるがえして、本件訴訟においては二六三、六七八円を主張しているくらいである)、他にも前記推計が不合理であり、原告の所得がその主張金額にすぎないことを認めるに足る証拠はない。
(三)してみると、原告の所得金額を前記三三二、四〇〇円の範囲内で三〇五、一四〇円とした被告豊島税務署長の更正決定は違法ではない。
五、以上のとおり原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石田哲一 地京武人 桜井敏雄)
〔別紙〕
一、請求の趣旨。
(一) 被告王子税務署長が昭和二十八年五月六日付でした原告西村専次の昭和二十七年分所得税の総所得金額を金二九五、九〇〇円と更正した決定のうち、金二一〇、九〇〇円を超過する部分はこれを取消す。
(二) 被告荒川税務署長が昭和二十八年六月一三日付でした原告木島恒次郎の昭和二十七年分所得税の総所得金額を金二三七、七〇〇円と訂正した決定のうち、金七三、二四〇円を超過する部分はこれを取消す。
(三)被告豊島税務署長が昭和二十八年四月三十日付でした原告渡辺トミの昭和二十七年分所得税の総所得金額を金三〇五、一四〇円と更正した決定のうち、金一七一、〇〇〇円を超過する部分は、これを取消す。
(四) 訴訟費用は被告等の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
原告等の請求を棄却する。
三、請求原因。
(一) 原告西村は昭和二十八年三月一五日、同木島は同年三月一六日、同渡辺は同年三月一五日それぞれ次表被告名欄記載の被告税務署長に昭和二十七年分所得税の総所得金額として、次表の申告金額欄記載のとおり申告したところ、各被告税務署長は次表の決定年月日欄記載の日に各原告の総所得金額を次表更正決定欄記載の金額に更正する旨の決定をし、その頃各被告はその旨を各原告に通知した。
原告名
被告名
申告金額
決定年月日
更正決定額
西村
王子税務署長
二一〇、九〇〇
昭二八、五、六
二九五、九〇〇
木島
荒川税務署長
七三、二四〇
〃 四、三〇
二四八、〇〇〇
渡辺
豊島税務署長
一七一、〇〇〇
〃 〃 〃
三〇五、一四〇
(二) そこで原告西村は被告王子税務署長に昭和二十八年六月三日、原告木島は被告荒川税務署長に同年五月二十九日、原告渡辺は被告豊島税務署長に同年五月二十九日それぞれ再調査の請求をしたところ、被告王子税務署長は同年六月十八日原告西村の再調査の請求を棄却し、その頃その旨を同原告に通知し、被告荒川税務署長は同年六月十三日原告木島の再調査の請求に対し更正決定の一部を取消し招和二十七年中の同原告の総所得金額を二三七、七〇〇円と訂正すると決定し、その頃その旨を同原告に通知し又被告豊島税務署長は同年六月二十三日原告渡辺の再調査の請求を棄却し、その頃その旨を原告に連知した。
(三) そこで原告西村は同年七月三日、原告木島は同年八月一七日原告渡辺は同年七月九日東京国税局長に対し審査の請求をしたが、同局長は、同年十二月十四日原告西村の審査の請求を棄却し翌十五日同原告に通知し、昭和二十九年二月二十三日原告木島の審査の請求を棄却し翌二十四日同原告に通知し、昭和二十八年十二月十四日原告渡辺の請求を棄却し同月十六日同原告に通知した。
(四) しかし各原告の昭和二十七年中の所得は各原告の申告額だけであるから被告等のした各更正及び訂正の決定のうち右各所得額を超過する部分は違法であるから取消を求めるため本訴に及ぶ。
四、請求原因事実に対する被告等の答弁
請求原因事実(四)記載の事実は争うがその他の事実はすべて認める。
後記のとおり昭和二十七年中に各原告の所得は被告のした更正決定を上廻るから該決定はなんら違法でない。
五、被告王子税務署長の原告西村に対する主張事実。
(一) 原告西村は食料品の販売業を営むものであるが、被告の係員の臨場調査の際呈示された売上帳、仕入帳及び棚卸帳には記帳洩があつて正確なものとは認められなかつた。
そこでやむを得ず被告は資産増減の方法及び売上高推計から所得を推計した。
(二) 昭和二十七年中原告の資産は次のとおり金二九五、九一一円増加しており、これは同年中の原告の所得によつて増加していると認められるから、すくなくとも同額の所得があつたというべきである。
(1) 日掛預金の増加 一一、五七九円
王子信用組合に対する日掛一〇〇円の預金で期首現在高〇期末現在高一一、五七九円である。
(2) 家計費 二四八、三四〇円
原告の家族は五人であるが、総理府統計局作成の消費実態調査年報による東京都における一人一ケ月当りの平均家計費は四、二二九円であるから、原告の一ケ年分の家計費は二四八、三四〇円である。
(3) 公租公課 三五、九九二円
所得税三一一、〇四〇円及び区民税四、九五二円の合計である。
(4) 借入金 なし
(三) 売上高を推計しこれに所得標準率を適用すると原告の昭和二十七年中の所得は金四〇二、六三四円と推計される。
原告の申立によると期首及び期末の在庫商品は殆んど差がなく六〇、〇〇〇円であるから、昭和二十七年中の平均在庫は六〇、〇〇〇円と認められるところ、東京国税局で調査した食糧品商の商品回転率は四三であるから、この積二、五八〇、〇〇〇円が売上高と推定される。これに食糧品販売の所得標準率一五、七を適用して得られる金額四〇五、〇六〇円から原告の営業部分に対応する家賃(原告の家屋は総坪数一四坪でそのうち店舗は五坪で家賃は年額六、七九二円である。)二、四二六円を控除して、原告の同年分の所得は四〇二、六三四円と推計される。
(四) 右二つの推計方法によつて算出される原告の所得額の範囲内でこれを二九五、九〇〇円とした更正決定は違法でない。
六、被告王子税務署長主張事実に対する原告西村の答弁及び主張事実。
(一) 被告主張事実(一)のうち、原告が食料品(乾物)の販売業を営むものであることは認めるが、原告の帳簿に記載洩れがあつて正確でないとの事実は否認する。
(二) 同(二)の事実中、原告の家族が五名であること(但しその構成は、原告夫妻と長女(一五歳)次女(一三歳)及び長男、(六歳)である。)、総理府統計局作成の消費実態調査年報による東京都の一人一ケ月の平在家計費が四、二二九円であること、昭和二十七年中支払つた原告の公租公課が被告の主張するとおりであることは認めるがその他の事実は争う。
原告の家計費は一カ月大体一四、〇〇〇円年額一六八、〇〇〇円であつて、到底被告主張の平均家計費に及ばなかつた。
昭和二十七年六月の消費実態調査年報の支出と原告の実際の支出を比較すると次表のとおりとなる。
費目 内訳 年報 原告 差額
I 食糧費 九、四六七 六、六八九 二、七七八
1 主食 三、二一六 三、一二七
2 魚介類 九〇二 (2) ~(7)
3 魚類 四三九 (9) ~(18)
4 獣乳、鳥類 合計 三、一〇二
その他加工品 五六四
5 豆及菜類 八八七
6 乾物類 九一
7 豆腐煮物及び漬物 七六二
8 調味料 七四二 四六〇
9 菓子及果物類 九四三
10 酒類 三四六
11 食料 一七一
12 その他食料品 四
13 外食 四〇〇
II 被服費 二、六八二 七九〇 一、八九二
III 光熱費 七五九 六八〇 七九
IV 住居費 九八四 四六六 五一八
1 家賃、地代 三〇二 二六六
2 住宅修繕 二二四 八〇
3 水道料 一〇〇 一二〇
4 家具什器 三二二
5 家屋購入費 三六
V 雑費 四、五一二 四、四三〇 八〇
1 保健 衛生 一、一一八 七八〇
2 交通 通信 三六一 一九〇
3 教育 三七九 一、四五〇
4 文房具 八三 九〇
5 修養 娯楽 九二五 二〇〇
6 煙草 三六〇 六〇〇
7 その他の雑費 一、二八六 一、一二〇
合計 一八、四〇四 一三、〇五五 五、三四九
昭和二十七年中の預金の増加額は一、一七九円である。
(三) 同(三)の事実中、期首及び期末の在庫商品には差がなく六〇、〇〇〇円であつたことは認めるが、商品回転率、食料品販売の所得標準率及び家賃(但し店舗が五坪であることは認める)は争う。
原告の同年中の売上高は一、一九一、九〇〇円であるから商品回転率は一九、八六であり、原告の営業部分に対応する家賃は三、六〇〇円である。
原告方付近の略図は本件訴訟記録一九〇丁のとおりであつて、前の道路は十条製紙株式会社に至るもので貫通していないし、都電の停留所より約二〇〇米も離れているうえ、同業者の店舗があつて競争が激しいという悪い立地条件にあり、原告の店舗は間口二間半奥行二間の小店舗である。
ところで一般に交通機関の着発点、表通りにある店舗と裏通りや交通機関より遠距離にある店舗とでは商品回転率に大きな相違のあることは当然であつて、前記のような条件にある原告に対して商品回転率より算出した売上高に所得標準率を機械的に適用することは不合理である。
七、被告荒川税務署長の原告木島に対する主張事実
(一) 原告は肩書地において青果物の販売を営むものであるが被告の係員の臨場調査の際売上帳、仕入帳及び経費帳が示されたが右各帳簿が的確に記帳されているものとは認められなかつた。
そこで推計によつて昭和二十七年中の原告の総所得金額を二三七、七〇〇円と訂正したが、後記のとおり同年中の原告の総所得金額は二七三、二六五円と算出されるから、この金額の範囲内でなされた被告の決定は違法でない。
(二) 原告の売上原価を基礎としこれに標準差益率を適用し、更に右調査の課程における原告の申立及び審査請求の際原告から提出された計算書を参酌して次のとおり原告の所得を推計する。
(1) 販売利益
期首棚卸額 二一、五三〇円 期末棚卸額 二二、九〇〇円
仕入高 一、三二一、九四五円 売上高 一、六六七、六一八円
荒利益 三四七、〇四三円
合計 一、六九〇、五一八円 合計 一、六九〇、五一八円
(イ) 期首棚卸、期末棚卸及び仕入の各金額は原告の提出した審査請求書添付の計算書によつた。
(ロ) 売上高は売上原価一、三二〇、五七五円(〔期首棚卸高+仕入高〕-期末棚卸高)に荒利益率を乗じて算出したが、荒利益率は青物が二〇・二%、果物が二二・二%の標準差益率を適用し、果物と青物の売上割合は三〇%と七〇%であるから、夫々の割合の売上原価を算出しこれに前記荒利益率を乗じて計算した。
(2) 必要経費 七三、七七八円。
原告は同年中の必要経費として後記の表のとおり九〇、八八四円と申立てたが、右のなかには税法上必要経費とは認められないものが含まれていたのでこれを除き七三、七七八円と認めた。
科目
原告申立額(円)
被告認容額(円)
差額(円)
備考
運賃
組合費
修繕費
電灯費
水道料
消耗費
交際費
雑費
地代家賃
公租公課
木炭煉炭
減価償却
購読料
衛生費
合計
一〇、五〇〇
七、八〇〇
一〇、四五三
三、六九九
一、一三三
九、九七〇
四、七四〇
五、八三五
四、〇二〇
一六、〇八九
二、〇七〇
七、六一〇
一、七七〇
五、一九五
九〇、八八四
一〇、五〇〇
七、八〇〇
一〇、四五三
三、六九九
九二一
九、九七〇
二、八五〇
二、七七〇
九六〇
二一、六一四
〇
二、二四一
〇
〇
七三、七七八
△二一二
△一、八九〇
△三、〇六五
△三、〇六〇
△五、五二五
△二、〇七〇
△五、三六九
△一、七七〇
△五、一九五
△一七、一〇六
(イ)参照
(ロ)参照
(ハ)〃
(ニ)〃
(ホ)参照
(ヘ)〃
(ト)〃
(ト)〃
(イ) 原告の昭和二十七年中の年間水道料は次のとおりであるが、このうち営業上に使用したのは五割と認め、他は家事に使用したものとして否認した。
一月
三月
五月
六月
合計
一一一円
二五一円
二五一円
一二六円
一、八六三円
七月
九月
十一月
十二月
一二六円
三二三円
四八〇円
一九五円
(ロ) 交際費については後記(八(二)(ロ))原告主張のうち、一月十一日民主商工会(以下単に民商会という)新年会会費五五〇円、二月二十九日ビラ代一二〇円四月十七日民商会花見会費一〇〇円、五月二十五日民商会常会菓子代四二〇円、七月一日花輪割り前一五〇円、同月五日菓子代割り前五〇円と六月二日祭礼寄付金三〇〇円のうち五〇〇円の合計一、八九〇円は原告の営業に関連のある経費とは認められない。
(ハ) 雑費中、民商会費は同会が納税に関する指導、研究を事業内容とするもので、原告の営業と直接関係がないから、これを必要経費と認めることはできない(なお青果組合費は原告の申立額を認めた)。叉酒代も必要経費ではないからこの二口合計三、〇六五円を否認した。
(ニ) 原告の土地使用面積は十坪であつて、店舗の建坪は三・七五坪(このうち昭和二十七年四月までは三畳間を居間に使用していたが、その後長男名義で居住部分を建増し三・七五坪は全部店舗となつた)であるから地代のうち十分の三・七五が営業に要する地代であるがこれを十分の四と認定した。又原告は家賃として五月以降毎月二〇〇円宛合計一、六〇〇円を計上しているが、前記居住部分の家賃として原告の長男に支払われるもので営業に関連のないものとして否認した。
(ホ) 木炭、煉炭は家事関連費として否認した。
(ヘ) 減価償却は次の店舗についてだけである。(店額法による)
種類
構造
取得額
計算基礎額
耐用年数
償却率
償却額
建物
店舗
三〇、〇〇〇
二七、〇〇〇
一三
〇、〇八二
二、二四一
原告主張の中古荷車、店舗の日除及び中古自転車はすでに償却済と認めて除外した。(かりに右物品が償却済でなかつたとしても税法で認められる償却金額は荷車は六三〇円、日除五四〇円、自転車一、一二五円である。)
(ト) 購読料及び衛生費はいずれも営業に関連するものとは認められない。
(3) 従つて昭和二十七年分の所得は(1) の荒利益三四七、〇四三円から(2) の必要経費七三、七七八円を控除して金二七三、二六五円と算出される。
八、被告主張事実に対する原告木島の答弁
(一) 被告主張(一)の事実中原告が肩書地において青果物の販売業を営むものであること、被告の係員に被告主張の帳簿を呈示したことは認めるが、右帳簿が正確でないてとは否認する。
(二) 同二(1) の事実中原告の昭和二十七年の期首棚卸高、仕入高及び期末棚卸高が被告主張のとおりであることは認めるがその他の事実はすべて争う。同(二)(2) の事実中運賃、組合費、修繕費、電灯料、消耗費及び公租公課の金額が被告主張のとおりであることは認めるがその他は争う。
(イ) 年間の水道料のうち一月の一一一円(同月には三三〇円を支払つた)をのぞいてその他の月に被告主張の金額を支払つたことは認めるが、原告はその六割を営業のため使用し、四割を家事に使用したのである。従つて水道使用料中必要経費となるものは金一、二四九円である。
(ロ) 交際費は四、七四〇円であつてその内訳は次のとおりである。
月日
摘要
金額(円)
月日
摘要
金額
一 一三
〃 一一
〃 一八
二 二九
三 一五
〃 三一
四 一七
〃 〃
〃 三〇
五 一四
〃 二五
〃 三〇
六 二
〃 三
〃 一七
〃 二五
御茶
民商会新年会
御茶
ビラ
御茶
〃
〃
民商花見会費
御茶
御茶
民商常会菓子
御茶
祭礼寄付金
祭礼寄付金
御茶
御茶
一〇〇
五五〇
一〇〇
一二〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
四二〇
一〇〇
七〇〇
三〇〇
一〇〇
一〇〇
〃 一〇
〃 二五
七 一
〃 〃
〃 五
〃 一五
八 三
〃 二一
九 四
〃 一九
一〇 一
〃 一五
一一一三
〃 一四
一二二五
〃 一七
菓子
御茶
花輪割り前
御茶
茶菓子割り前
御茶
〃
〃
〃
〃
〃
〃
御茶
〃
〃
〃
五〇
一〇〇
一五〇
一〇〇
五〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
一〇〇
合計
四、七四〇
(ハ) 雑費中民主商工会費及び祭礼用酒代三、〇六五円は当然必要経費として認められるべきものである。仮りに被告主張のように民主商工会が納税に関する指導、研究を事業内容とするものであつても、課税の適正のために業務の実態を正確に政府に反映させることは営業者の国法上の義務であり、その義務を果すための費用である民主商工会費は当然必要経費となるものである。
(ニ) 地代家賃は四、〇二〇円であつて、内訳は地代二、四二〇円、家賃一、六〇〇円である。(原告の土地使用面積が一〇坪でそのうち店舗部分の建坪が三・七五坪であることは認めるが全額を営業上の経費とすべきものである)
(ホ) 木炭、煉炭代二、〇七〇円は営業上必要なものである。
(ヘ) 減価償却費は七、六一〇円でその内訳は次のとおりである(実情による)
取得年月
科目
取得金額
計算基礎額
耐用年数
償却額
二三・七
〃
二五・一二
二六・三
家屋
中古荷車
店舗日除
中古自転車
三〇、〇〇〇
八、五〇〇
六、〇〇〇
五、〇〇〇
八
七
六
二
三、三七〇
三、三七〇
一、〇九〇
九〇〇
二、二五〇
合計 七、六一〇
(ト) 購読料は日本経済新聞及び読売新聞の購読料年額一、七七〇円である。
(チ) 衛生費は原告、家族及び従業員の三名の風呂代一回一二円で二月を除く毎月三六〇円、二月三三五円合計四、二九五円と、一月一回一五〇円の理髪代の半額合計九〇〇円の総計五、一九五円であつて、これらは原告が食品賑売業であるため必要な経費である。
(リ) 以上のとおり原告の昭和二十七年中の必要経費は九六、四〇九円である。
九、被告豊島税務署長の原告渡辺に対する主張事実
(一) 原告は陶器類の販売を業とするものであるが、被告係員の調査に対し売上帳、仕入帳及び現金出納帳を呈示したが、右帳簿には仕入洩があつて正確に記帳したものとは認められなかつた。そこで推計によつて昭和二十七年分の原告の総所得金額を金三〇五、一四〇円と更正したが、後記のとおり原告の同年中の総所得金額は金三三二、四〇〇円と認められるからこの範囲内でした被告の更正決定は違法でない。
(二) 原告の主たる仕入先からの仕入額を調査し、右調査の過程における原告本人の申立及び審査請求の際提出した計算書を参酌すると原告の昭和二十七年中の売上高は次のとおり金一、五二四、五八五円である。
期首棚卸高
仕入高
販売利益
計
二〇一、〇二八
(註一)
九三四、七〇五
(註二)
四五七、三七五
一、五九三、一〇八
期末棚卸高
売上高
計
六八、五二三
(註一)
一、五二四、五八五
(註三)
一、五九三、一〇八
註一、期首棚卸高及び期末棚卸高は原告提出の審査請求書添付の計算書による。
註二、仕入高の内訳は次のとおりである。
長谷川商店 一六五、〇六二円
高木商店 一九九、四九五円
近江化学株式会社 七八、八九七円
丸八商店 一四一、四三八円
青木商店 七九、九三六円
日栄商店 五四、三八八円五〇銭
加藤商店 一二三、三一六円
合計 九三四、七〇五円五〇銭
註三、売上高は荒利益率及び売上原価を基礎として計算した。即ち原告提出の審査請求書添付の計算書に記載された荒利益率(売上高より売上原価を控除した差額を売上高で除して算出した)は三〇%であつて、売上原価(期首棚卸と仕入高の和から期末棚卸高を減じた額)一、〇六七、二一〇円であるから次の算式により売上高を計算した。
売上原価÷(1-差益率)=売上高
1,067,210÷(1-0.3)= 1,524,585
このようにして算出した売上高金一、五二四、五八五円に陶器販売業の所得標準率二五・三%を適用し、更に特別経費である家賃金四、三二〇円(原告の家屋一七・五坪であるがこのうち店舗部分は五坪であるから年間家賃中四〇%が営業上の経費と認められるので原告申立額一〇、八〇〇円の四〇%を営業上の経費と認めた。)及び雇人費金四九、〇〇〇円を控除すると、同年中の原告の所得は金三三二、四〇〇円と認められる。
一〇、被告主張事実に対する原告渡辺の答弁
(一) 被告主張(一)の事実中原告が陶器の販売業を営む者であること、原告が売上帳、仕入帳及び現金出納帳を記載していたことは認めるが、その他の事実は否認する。即ち原告は正確に記帳していたのであつて被告主張のように仕入洩れ等はなかつた。
同(二)の事実中昭和二十七年の原告の期首棚卸高、期末棚卸高支払家賃及び雇人費(但し被告主張額は現金支給額のみであつて、原告方の使用人高久三男は住込であつて別に一ケ月金四、〇〇〇円割合の食費を現物で支給しているからこの分も加算されるべきである)が被告主張のとおりであること、また仕入高の内訳中、近江化学株式会社、青木商店及び日栄商店からの仕入額が被告主張のとおりであることは認めるが、その他の事実は争う。
また原告は昭和二十六年十月一日訴外酒井芳栄から月五分の利息で金二十万円を借受け昭和二十七年中金三万円の利息を支払つているからこの金額が特別経費として控除されなければならない。
(二) 原告の昭和二十七年中の収支計算は次のとおりであつて、所得金額は金二六三、六七八円を超過しない。
期首棚卸高
仕入高
売上原価
必要経費
所得
計
二〇一、〇二八
(註一)
五七八、二九七
(註二)
七一〇、八〇二
一三〇、三二〇
(註四)
二六三、六七八
一、一七三、三二三
期末棚卸高
売上高
計
六八、五二三
一、一〇四、八〇〇
(註三)
一、一七三、三二三
註一、期首棚卸高及び期末棚卸高は被告主張額と一致し争がない。
註二、仕入高の内訳は次のとおりである。
長谷川商店 六六、〇八六円
高木商店 一一七、五二一円
近江化学株式会社 七八、八九七円(争なし)
丸八商店 八七、三六一円八〇銭
青木商店 七九、九三六円(争なし)
日栄商店 五四、三八八円五〇銭(争なし)
加藤商店 六二、三二三円
吉川商店 三一、八八四円
合計 五七八、二九七円三〇銭
註三、売上高の月別明細は次表のとおりである。
月
金額(円)
月
金額(円)
一
二
三
四
五
六
七九、六〇〇
五四、八〇〇
六四、九〇〇
六八、九〇〇
六九、七〇〇
六五、二〇〇
七
八
九
一〇
一一
一二
七七、五〇〇
五二、八〇〇
五八、二〇〇
八六、二〇〇
一〇六、四〇〇
三二六、六〇〇
註四、必要経費の内訳は次ぎのとおりである。
家賃 四、三二〇円(争なし)
雇人費 九六、〇〇〇円((一)参照)
借入金利息 三〇、〇〇〇円(〃)
(三) 原告の昭和二十八年から同三十一年までの被告の承認を受けた所得額は別表のとおりであつて昭和二十七年は陶器販売業を開業当初の年度でその後の年度より所得が少いことは経験則上明らかであるからこの点からみても被告のした更正決定の不当であることは明らかである。
昭和二十八年 一八五、〇〇〇円
昭和二十九年 一九五、〇〇〇円
昭和三十年 二七九、六〇〇円
昭和三十一年 三〇八、〇〇〇円
一一、原告渡辺主張事実に対する被告の答弁
原告渡辺の主張事実中、原告が昭和二十八年から同三十一年までの所得税の確定申告として原告主張の額を申告した額について更正決定をしていないことは認めるがその他の事実はすべて争う。雇人費四九、〇〇〇円のなかには給食費が含まれており、昭和二十七年中に借入金の利息を支払つた事実はない。